第73章 散華
「はい、お待ちどう」
嗅いでいるだけで空腹が刺激されるような香りと共に、2杯のラーメンが差し出される。
割り箸を、カウンターに設置されている割り箸ケースから2本取って片方を涼太に渡そうとしたら、彼も同じ事をしていた。
目を合わせて笑い合って、お互い、相手が取ってくれた割り箸をパキリと割る。
「あ、キレイに割れた。両思いっスね」
「……なぁに、それ?」
「割り箸が真ん中でキレイに割れると両思い、ってよく言わない?」
「……初めて聞いた……」
ちょっとしたことでも、なんかウキウキする。
私の手にある割り箸も、キレイに割れた。
麺を啜る音が、静かなお店に響く。
騒がしいテレビ番組はいつの間にか終わって、ニュース番組に変わっていた。
また、空港のシステム障害のニュースが読み上げられている。
「大変そうだね」
「ホントっスね」
2人で画面を見上げていると、大将が小皿を2枚、カウンターの上に置いた。
お皿の上には、炒飯。
「あれ? 頼んで……ないっスよね?」
こくりと頷いて返す。
でも、他にお客さんは1人も居ない。
オーダーミスという訳ではなさそうだけど……?
「サービス」
大将はぽつりとそう言って、お鍋を洗い出した。
再び2人で顔を見合わせる。
切れ長の瞳が、丸みを増している。
またくすりと笑って、声を揃えてお礼を言った。
ありがとう。
このひとがいるこの世界が、好きだ。
大将のラーメンと温かい気持ちで、
すっかり身体もこころも温まった。
今日は、ワリカンで。