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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第73章 散華


「えっ……」

まさか、私の考えていた事がだだ漏れだった? と一瞬心配したものの、それは杞憂だったみたい。

「オレ、あったかいもん食べたいんス」

涼太は既に視線をショーケースから私に移している。

チンして貰えばあったかいよ……なんて可愛げのない事を言うつもりはない。

嬉しい。
まだ、居られるんだ。

年越しを一緒に過ごした筈なのに、なんだかんだすれ違いで、密度が薄かった気がして。

気持ちが通じたみたいで、嬉しい。
私……まだ、一緒にいたい。

「私も、あったかいもの……食べたい」

溢れ出る気持ちをうまく言葉にする事が出来なくて、ようやくそれだけ言えた。





「あ」

店に入ってきた時には通らなかった陳列棚の前を通過した涼太が、驚いた様子で振り向いた。

「どうしたの?」

「ほらコレ、みわが好きなヤツ。新作っスね」

私が時々食べているチョコレートの、限定味だった。

覚えてて、くれたんだ。

「美味しそうだね」

「一緒に食お」

涼太は私の返事も待たずに、さっさと会計を済ませてしまった。

……いつ、一緒に食べるつもりなんだろう?

そんな事ばかり考えているのを、彼は知らない。





「元日からやってる店、あるっスかね」

2人でふらふら駅前までやって来て、シャッターの閉まっている店の多さにため息。

「なかなかないね……あ、あの看板、年中無休って書いてない?」

「お、ホントっスね。って……あれ、イカガワシイお店っスよ、みわ」

「ええっ!」

確かに、ピンク色の看板の下端には、オトナのオモチャと書いてある。

……年中無休の表示に気を取られて、全く気がつかなかった。

「はは、みわが突然ダイタンになったのかと思ったっス」

「ち、違うってば、もう!」

白い息を吐きながら、笑い合う。

初詣帰りの人々とすれ違っていく。

家族や恋人、友達と一緒のひとばかりで、1人で歩いているひとは殆どいない。
皆、笑顔だった。

今まで、ずっと羨ましかった。

大切なひとと、笑い合うこと。
それが、こんなにもこころを温かくするなんて。

その笑顔が、泣きたくなるほど嬉しいなんて。



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