第73章 散華
「大丈夫だよ、1人で帰れるから」
「そういうワケには行かないっスよ。
どうすっかな、オレも寮戻るかな……」
涼太はコートを手にしながら、迷っている様子。
……本当は、まだ、一緒に……居たい。
「もう寒いから、涼太はおうちに居たら?
私、ちゃんと駅までの道も分かるし……」
「あ、みわは夕飯どうすんの?」
実は緊張感から解放されて、ますます空腹を感じていた。
「あ、何か……買って帰ろう、かな」
帰り……たく、ない。
「んじゃオレも、なんか買いに行くっスわ」
結局、2人で家を出た。
……涼太が引き止めてくれる気配はない。
当然だよね、お姉さん達、帰って来ないんだもん。
おばあちゃんにはご飯を食べて帰るって言ってあるから、今から変更したら気を遣わせてしまうだろう。
うん、夕飯は買って帰ろう。
もやもやした正体不明の気持ちを抱きながら、2人で近所のコンビニに足を踏み入れた。
「いらっしゃーせー」
いまいち覇気の無い気だるげな店員さんに挨拶され、店内を歩き始めると、外との寒暖差に顔の中心が熱くなる。
「みわ、ハナ真っ赤」
くすくすと子どものように笑われて、ドキリと胸が騒いだ。
「あっ……な、何にしようか、な」
最早わざとらしいほどのカタコトになり、ショーケースの前を不審にウロついてしまう。
コンビニでお弁当とかって、あまり買った事がない。
食費のためにお弁当は基本、手作りするし、たまに買う事があっても、コンビニよりもスーパーのお弁当の方が安いから……。
お弁当売り場の前で立ち止まって物色してみるものの、ピンとくるようなものがない。
涼太も、逞しくも細い腰を折り曲げて、うーんと悩んでいる様子だ。
「……みわ、食べたいものある?」
「えっ……うーん、それが、あんまりなくて」
あっ、そぼろ弁当。
まあ、これ……かな。
そのお弁当を手に取ろうと手を伸ばすよりも僅かに早く、涼太が言葉を紡いだ。
「なんかさ、やっぱどっか食いに行こっか」