第72章 散華
「あ、雪っスね」
「ほんとだ……」
はらり、はらり。
音もなく舞う白い雪は、やっぱり妖精に見えて。
涼太との距離を詰めるお手伝いをしに来てくれたのかな、なんて思ったりして……。
妖精さん、力を貸して。
意識して、大きく足を踏み出した。
縮まったのはたった、数センチ。
普段、肌と肌を合わせている筈なのに、今はたったこれだけの距離を縮めることが、出来なくて。
「ここ数年さ、多くなったっスよね。年末年始に、積もらない程度の雪」
「っ!」
突然そう言って振り向かれて、一瞬フリーズした。
詰めた数センチは、あっという間にまた広がってしまう。
「あ、うん、そだね」
「ん? どうかしたんスか?」
そう聞き返す声も、微笑みも優しくて。
心臓が握り潰されたみたいだ。
「ううん、なんでもない」
「もっと寒くなる前に早く帰ろっか。送ってくっスよ、いこ」
なんだろう、この気持ち。
どうしよう。
「お祖母さんには、また別の日にちゃんと新年の挨拶に行くっスね」
「……ん」
微風に煽られて舞う雪が涼太を纏って、まるで魔法がかかっているような神聖さを醸し出している。
「なんか、もうあの体育館で練習する事もないって、変なカンジっスわ。まあ、監督はいつでも来いって言ってくれたし、行くけどね」
「…………ん」
魔法、かけられてるのかもしれない。
涼太に。
「まあ、バスケ部はさ……みわ?」
「…………」
解けない魔法。
……解けなくて、いい。
「みわってば」
「涼太」
「ん? どしたんスか?」
「チョコ、食べたいな。さっき買ってくれた……やつ」
「いいっスよ。塩っからいモン食べた後って、無性に甘いもん食べたくなるよね」
ずっと、一緒にいたい……。
勇気を出して、袋からチョコレートを取り出そうとした大きな手を、捕まえた。