第73章 散華
立ち上るアップルティーの香りに、こころが落ち着いていくのがわかる。
折角ゲームで逸らした意識も、ゲームが終わるとすぐに戻って来てしまって……。
ふと窓の外を見ると、もう真っ暗だった。
「あれ……? 涼太、皆さん遅いね?」
夕食を頂いて、それから帰る事を考えると、遅くなってしまいそうだ。
おばあちゃんに連絡しておかないと。
おばあちゃんに手早くメッセージを送った。
「あれぇ? おかしいな、ホントっスね」
涼太はスマートフォンを手に取る。
「んー、特に連絡ないみたいだし、もう帰ってくると思うんスけどねぇ」
涼太が立ち上がり、すぐ後ろの出窓のカーテンを開け、外を見下ろしている。
サラリとした髪をかきあげる仕草に、また目を奪われてしまう。
なんでこんなひとが、私と……。
いつも、そう思わずにはいられない。
気付けば、もうすぐ丸3年のお付き合いだ。
色んなことが、あったなあ……。
今までの出来事が、古いフィルム映画のようにカタカタと頭の中を巡る。
……なんていうキセキ。
熱くなる目頭をそっと押さえて、再び、温度の下がったアップルティーを口にした。
「みわはさ、あんま紅茶って飲まない?
オレと住んでた時も、オレ用に買ってくれてただけっぽかったケド」
懐かしいな。
当時あきから、緑茶しかないというのはちょっと渋すぎやしないかと言われて、コーヒーや紅茶も揃えたんだった。
そもそもコーヒーも紅茶も、あまり飲む機会がなかったから家に置いてなかっただけなんだけど……。
「ううん、涼太と暮らすようになって、日常的に口にするようになってからは、紅茶もとってもスキ」
「そっか、なら良かった」
スキ……
紅茶の事を言っただけなのに、口から出たその単語に、無駄に意識してしまう。