第73章 散華
みわが選んだゲーム。
ウイルスに感染した人間達がゾンビ化して襲ってくる……ガンアクションのシリーズモノの第5弾。
オレは1からやっているが、5は今までのものよりも操作性が向上し、明るいステージなどの戦闘も増え、恐怖という面では少し和らいでいる気がする。
それでもやっぱり期待してしまう、『きゃっ、怖い! ガシッ!』そんな流れ。
……しかし。
「涼太、私、手榴弾持ってるよ!」
「リョーカイっス、その裏に隠れてる奴ら、仕留めて!」
「はぁい!」
みわが、意外にかなり上手い。
また努力家な部分が顔を出して、あきサンとやる時に猛練習したのだろうか。
甘い雰囲気など一切なく、ひたすらゾンビ達を駆逐していくオレとみわ。
これはこれで、楽しい時間。
一所懸命にコントローラーを握る姿は、普段見られない顔。
意外な彼女の一面を見れた。
昨日から思い通りにならない事ばっかりだ。
色んな感情に振り回されて。
……でも、今の自分、嫌いじゃない。
何不自由なくやっていた時代が嘘のように、気持ちが揺れる。
自信がなくなる。
少し前のオレが聞いたらぶっ倒れそうな状態だけど、悪くない。
大切な……本当に大切なひとが、出来たから。
「涼太凄い! SSだって!」
ステージをクリアした時のスコアによって割り振られるランクが、SS……つまり、最高ランクだった。
「やったね! お疲れっス!」
幾度となくそうしてきたように、拳と拳を合わせた。
触れたみわの拳が驚くほど冷たくて、一瞬固まってしまう。
「あ……っ、ごめん、なさい」
みわも意識しているのか、パッと拳を離し、ガラステーブルの上に置いてある紅茶を手に取った。
ふう、と吐く息とともに、ふんわりと香るアップルティーの香り。
纏わり付く欲を振り払うように、強く頭を振った。