第73章 散華
そう言えば、以前もこんな事があったな。
あれは……なんの時だっけ。
そうそう、姉ちゃんの仕事の話をしていた時だ。
姉ちゃんの職種を聞かれて、
「上の姉ちゃんは、なんか病院行ってるみたいっスよ? 看護師じゃないっスかね?」
とか
「下の姉ちゃんは、なんか商社みたいなそーゆーとこに行ってるっぽい」
とかテキトーな事を言ったおかげで、みわにだいぶ呆れられた。
上の2人が社会人になってから、オレもバスケだなんだが忙しく、なかなか家族でゆっくり話すという機会がない。
だから仕方ないんだと言い訳する事にした。
リビングに入ると、ヒヤリと冷えた空気が頬を打つ。
暫く留守にしていたせいで、部屋は冷え切っている。
真っ先にエアコンの電源を入れた。
一軒家って、やっぱり寒い気がする。
マンションに住んでた時はそんなに感じなかったのに……。
「みわ、なんかあったかいものでも飲もうか」
……
返事がない。
振り向くと、固まった表情でオレをじっと見つめているみわがいた。
「みわ?」
「あっ、ハイ! なんでしょうか!!」
全身から迸る緊張感がハンパなくて、思わず笑った。
「ぷっ、そんなキンチョーしないでってば。
そもそも、ウチ来るのだって初めてじゃないっスよね?」
「あ、うん、はい、そうですよね」
まるで、壊れたロボットだ。
手足同時に出して歩いているその細い肩を抱こうとして……思いとどまった。
ダメだ。
今日はもう、触れちゃダメだ。
絶対に、止まんない。
「皆帰って来たら夕飯だろうからさ、部屋でゲームでもしとく?」
みわには触れずに踵を返し、食器棚からカップを2つ手にした。
「う、うん、そうだすね」
全くもって解けないそのキンチョーっぷりに再び大笑いし、温かい紅茶を注いだカップで両手を制御したまま、オレの部屋へ向かった。