第72章 散華
「それにしても、遅いっスね……腹、減んない?」
あれからまた少し時間が経っても、誰も帰ってくる気配がない。
紅茶とクッキーで凌いでいたお腹も、そろそろ我慢の限界とでも言うかのように、クルルルと鳴き出していた。
「そうだね、お腹……」
そこまで言ったところで、涼太のスマートフォンが振動した。
「モシモシ姉ちゃん? ……うん、げ、マジで?」
涼太が驚いたように窓の外を眺めて、またこちらに向き直った。
「テレビ見てないから知らね。……うん、でも今日みわ来てるんスよ。あー……うん、あー……分かった」
なんだか煮え切らない様子で、通話を終えた。
「お姉さん達、どうしたの?」
「んー、なんかさ、空港のシステム障害かなんかで、飛行機飛ばないんだって」
「へ!?」
「ニュースで大々的にやってるらしいっス。なんか、手続きやらなんやらで、なかなか連絡出来なかったんだってさ」
そう言いながら涼太はテレビをつけ、ニュース番組にチャンネルを合わせた。
キャスターが丁度、その話題を読み上げているところだった。
大規模なシステム障害で、年末年始の観光客に大打撃。
各方面に多大な影響が出ているらしい。
ハッキングされたような形跡はなく、現在原因究明中、とのことだ。
「じゃあ、帰ってくるまでにもう少しかかるのかな?」
「うん、もう今日の便は全便欠航が決まったらしくて、明日、復旧次第帰って来るってさ」
「へっ」
今日は、帰って……こない?
「そっか、じゃあ私……また明日、出直すね。お茶とお菓子、ご馳走さまでした」
「うん、折角来てくれたのに、ゴメン。あ、いいっスよ、カップとかは片付けておくから」
本当なら、もう少し一緒に居られた筈なのに……引き止めては、くれないんだ。
そんなワガママな自分が顔を出す。
「ありがとう、お願いします」
それでも、ここに来ると決まってから緊張で固まっていた身体の力が抜けた。
ほぅ、とため息をついて、鞄を手に取る。
「またね、涼太」
「みわ、送るっスよ」
足早に階段を下りると、背後からそう言って小走りで追ってくる気配。