第19章 夏合宿 ー2日目ー
「おう黄瀬、オマエ車で移動な」
笠松センパイが、後ろも振り返らずにそう言った。
「え!? オレも走って移動するっス! もう大丈夫っスよ!?」
「いや、山道は足に負担がかかるから、体育館着いたら体育館の周り走っとけ」
「ええ〜……」
もっと、もっと強くならなきゃいけないのに思い通りにならない身体に、イラつきを覚える。
でも、センパイがこう言ったら覆ることはないっスね……
これ以上反抗しても仕方ない。
体育館に着いたら、ピッチを上げて走ろう。
カバンを持ち、宿の入り口へ向かう。
宿名が書かれたミニバンが停まっている。
ミニバンの後部座席で、人影が…みわっちだった。
「みわっち?」
そうか、彼女だって車で移動だ。
同じ車になるに決まっている。
「あ、ごめんね、今荷物積んでて」
唇が少し潤っている。さっき渡したクリーム、ちゃんとつけてるみたいっスね。
スタイリストさんから貰ったやつだから、
効果は抜群……だけど……
何があったの、みわっち。
オレからは追及しないことにした。
それがかえって負担になるかもだし、彼女の意志で、彼女から相談して欲しい。
ワガママなのかな。オレ。
「荷物まだあるなら、手伝うっスよ」
「ううん、これで最後……お待たせしました!」
運転席に宿の人が乗り込む。
「あれ、オレら2人だけ?」
「うん、監督たちは後から別で」
「そっスか……」
思わぬところでふたりきりになった。
運転手さんいるっスけど。
2人で後部座席に乗り込む。
ミニバンは広いから、後部座席もかなり余裕がある。
オレは、前から見えないよう少し距離を詰めて座って、そっとみわっちの小さい手を握った。
一瞬ビクッと驚いたようだったけど、振り払う様子はない。
顔が赤くなってたらカワイイな、なんてコッソリみわっちの方を見た。
みわっちは、俯いていた。
鼻が赤くなっているように見える。
照れてるんじゃない…まさか、泣いてる?
彼女の手の上から握ってるだけだったのをやめて、指を絡める。
恋人つなぎってヤツだ。
最初、オレだけが握ってたけど、そのうちみわっちも、握り返してくれた。
冷房の効いた車内で、繋がれた手だけが熱かった。