第72章 悋気
「さっきも言ったっしょ?
俺は真ちゃんに救われたって」
そう言う高尾さんは、とても嬉しそうだ。
うざったいと言いたげな緑間さんも、高尾さんを見守るような優しげな瞳。
信頼し合っている、それが良く分かる。
私だって、涼太の事を信頼しているし、私も彼に信頼されたいのに、抱くのは嫉妬のような醜い感情ばかり。
いつも考えてしまう。
これって、相手の事を心の底から信頼出来ていないということ?
って。
もっと、どんな事があってもどっしりと構えていたいのに。
「嫉妬するイコール、信頼してないわけじゃない。そこ、履き違えないようにしないとっすよね」
私のこころの中を読んだような高尾さんの、その意外な言葉に、目を剥いた。
「信頼してないわけじゃ……ない……?」
「嫉妬ってさ、相手を強く想うあまりに抱いちゃう気持ちだから……あって当たり前の感情なんすよ」
当たり前の……そんなこと、考えた事もなかった。
「だからさ、それを受け止めてくれる大切な人の言葉があれば、何の問題もないわけよ」
受け止めて……くれる、言葉。
「ただ、それを受け止めてくれる人がいないと、黄瀬クンの抱いた感情は、ただのちっさいオトコのヤキモチになっちゃうけどね」
「はは……笑えないっスわ」
「……そっか……」
当たり前の、気持ちなんだ。
今まで、なんて言われてもピンと来なかったけど、誰よりも信頼し合っているこの2人に言われた言葉は、すとんとこころの中に落っこちてきた。
「……高尾さん、ありがとうございます」
「なんのなんの。こんなんで役に立てるならお安い御用。
神崎ちゃんは、黄瀬クンの事が好き?」
「ちょ、高尾クン、何言って」
「……好き、大好きです」
大好き。
涼太の事が、世界で一番、すき。
「……みわ」
テーブルの下で、寄り添ってきた大きな手と指を絡めた。