第72章 悋気
「早かったな」
部屋を出て行くと、意外といった様子で、赤司っちは眉を上げて微笑んでいる。
「喋ってただけっスもん」
「へえ、そうだったのか」
含みのある言い方だ。
そうそう赤司っちの思い通りにはならないっスよ。
……いや、みわの制止がなければ、今頃赤司っちの思い通りだったか。クソ。
「あの……赤司さん、青峰さんに空き部屋を聞かれましたか……?」
みわは、なんとしても青峰っちと桃っちをふたりきりにしたいようだ。
「ああ、聞かれたが、生憎今は空いている部屋がなくてね、断ったよ」
「そうなんですか……!」
……空いている部屋がない?
ウソだ。
オレが旅館内を歩いた時、こちら側の建物の中だけでも、相当な数の客室があった。
ここは貸し切りだという赤司っちの発言からして、あの部屋たちに客が泊まっていたとは考えにくい。
赤司っちはホント、なんでもお見通しなんだろうか。
「それで、青峰さんはどうされたかご存知ですか?」
「丁度桃井が部屋から出てきたところだったから、何か2人で話していたようだが……申し訳ないが、その後は知らないな」
「そうですか! ありがとうございます!」
みわは、小さくガッツポーズをしている。
「じゃあ、桃っちの部屋に昼メシの事、声かけてきた方がいいっスか?」
親切心からそう言ったのだが、赤司っちは首を横に振った。
「いや、その必要はないよ」
「……そっスか?」
みわも赤司っちも、一体なんなんだろうか。
食事処に行くと、緑間っちと高尾クンが既に席についていた。
「おっ、おふたりさん! 先にやってますよ〜」
まるで宴会会場での一コマのようなセリフは、高尾クン。
慣れているのか、緑間っちは何も言わない。
みわと一緒に、彼らの正面の席に着いた。