第72章 悋気
「つ……ッ」
並びの美しい歯に噛み付かれて、下唇がピリリと痛む。
続いてやってくる対照的な優しい舌の動きに、湧き上がる快感に身悶えてしまう。
涼太の愛撫、何度されても慣れない。
脳みそ、溶けそう……。
「っふ、っ」
男性の唇って、こんなに柔らかいの?
形の良いその唇とキスをしていると、訳が分からなくなる。
さっき、涼太が言っていた言葉……
口って、大事だって。
確かにそうだ。
人間にとって……とても大切な、部分。
そう思いながら涼太のキスを受け入れると、彼の大事なものを奪っているような錯覚に陥って、背筋がゾクゾクする。
舌と共に酸素まで吸い合って、唾液を交わして……。
甘い。
なんて甘い、行為なんだろう。
太腿の奥が、疼く。
だめ、こんな所で。
そう思っているのは嘘じゃないのに、ジリジリと理性の端に火がつき、燃え広がっていくのを感じる。
時折交わされる視線の先にある、欲情の光を宿した瞳の誘惑に、逆らえない。
止められない。
大きな手がするりと浴衣の中に入り込んでくる。
「あ、っ」
胸や太腿をさわさわと優しく撫でると、浴衣を乱していく。
その自然すぎる動きに、抵抗するのも忘れてしまった。
「……みわ、柔らかい」
「んぁ……ッ」
胸を下から持ち上げられるように揉まれ、先端を強く吸われると、ひとりでに背中が反り返る。
「相変わらず……感度良すぎ」
ハァ……と吐かれた熱い息が肌を擽るのすら、耐え難いほどの快感を煽って。
「ね……シちゃう?」
その甘い誘惑に、思わず首を縦に振りそうになる。
「何考えて……ここ、赤司さんの」
「みわだって、さっき温泉でシようとしてたじゃないっスか」
「うっ」
ね? と、魅惑的な視線を送られてしまっては、拒否出来ない。
身体が動かない。宝石の瞳を持ったメデューサに睨まれたみたいに、身体が石になってしまったかのようだ。