第72章 悋気
みわがイタズラを成功させた子どものように、舌を出す姿があまりに可愛くて。
広げた布団の中に引きずり込み、その唇を、差し出された舌ごと呑み込むようにして奪った。
「っ……ぁ」
重なり合う唇が、舌が、濡れていく。
抵抗している内に入るのだろうか、力なくオレの腕を掴むその姿にどんどん煽られ、燻ったままの炎が、再燃してくるのが分かる。
目の前の彼女が、蕩けていくのが堪らない。
「りょ……た?」
「ッ、は……みわ……」
全部、オレの。
「キスってさ、すげぇっスね」
唇を離してそう語り出すと、みわは無意識のうちにオレの唇を求めて赤い舌を覗かせている。
「ん……?」
「だってさ、口って、呼吸したり、食事したり、話したりするんだから、メチャクチャ大事な部分じゃないスか」
「……うん……?」
ぽーっとして、オレが言ってる事の半分も伝わってないような表情。
いいんス、独り言になっても。
腕の中の熱を感じられるから。
「それをこうして塞ぎ合ってる、っていうのが、特別だなって思ってさ……」
「ん、っ」
みわがオレの肩を押し返して、逃れようとしている。
「だめだよ、青峰さんっ……戻ってくるって、いってた」
「ダメ……みわ、抵抗しないで」
「だ、だめだって……」
そう言ったみわの腕に、もう力は入っていない。
狭くて薄暗い布団の中の酸素は、どんどん無くなっていくようだ。
「みわ、ねえ、青峰っちにキスしたでしょ?」
蕩けていた大きな瞳が見開かれる。
「それは、さっき言ったはず、じゃ」
「うん、聞いたっスよ? 青峰っちのほっぺたにキス、したって」
「えっ、キスじゃ、ない……ン!」
唇だろうが歯だろうが、オレ以外の男に触れたなんて、例え頬だってイヤだ。
オレを刻み付けるように、そのぽってりとした艶やかな唇に噛み付いた。