第72章 悋気
「ん……」
少し掠れたその呻きに似たような声に、意識が戻ってくる。
いけない、またちょっとボーッとしてしまってた。
ベッドの涼太に目を向けると、緩く寝返りを打ったようで、布団が乱れている。
あの時、さつきちゃんとの誤解も解けて、良かった。
青峰さんと何があったかも聞けたし。
でも……
さつきちゃんが涼太と寄り添うようにして歩いていたあの姿。
あれについては、結局最後まで言えずじまいだった。
……ううん、何かを疑ってた、とかじゃない。
さつきちゃんが好きなのは青峰さんって、ハッキリ聞けたし。
涼太を疑ってるわけでも、ない。
ただ、私がどう頑張っても入っていけない、帝光中の絆……私の知らない、皆。
そんな風に感じてしまう自分がとてつもなく小さな人間に思えて、嫌になる。
どこまでも過去に縛られる人間なのかと、心底嫌気がさした。
軽く頭を左右に振りながらベッド際に戻り、はみ出している長い足に布団をかけ直す。
もそもそと、布団が蠢いた。
「……みわ?」
低く、甘い声。
うっすら開いた切れ長の瞳と、目が合った。
「ごめんなさい、起こしちゃったね」
「いや……ちょうど、夢の覚め際だったっス」
「お水、飲む?」
「うん」
目が覚めたら飲めるようにと、ベッドサイドのテーブルにミネラルウォーターのペットボトルを用意しておいた。
「待ってね、今開け……あっ」
ペットボトルを掴もうと伸ばした手が、同じく伸ばされた涼太の手とぶつかり、ボトルは床に落ちた。
「ごめんね、落ち」
落ちたボトルを拾おうとした私の身体を、温かいものがふわりと包んだ。