第72章 悋気
「ヘンタイ、スケベ、バカって言って叩いちゃったから……大ちゃん、怒ってると思う。
嫌われたよ、絶対」
そ、それはまた……。
青峰さん、踏んだり蹴ったりだったみたいだ。
いやいや、突然の事とはいえ、そんな事をした彼も悪い。
……こんな言い方は失礼かも知れないけれど、悩みというのは、案外第三者からしてみたら、そんな事でって思うものなのかもしれない。
当事者になってみたら、悩んで、もがいて、苦しんで。
そう思うと、悩んだ時に誰かに相談するというのは、大切なことなのかもしれないな。
その悩みを聞いてくれるひとがいるというのも、本当にありがたい事なんだ。
改めて、思い浮かぶたくさんの人たちに感謝。
私も、相談してくれたさつきちゃんの背中を、少しでも押せれば。
「さつきちゃん、青峰さんは、そんな事でさつきちゃんの事を嫌いになったりしないよ」
「どうして、分かるの?」
「上手く説明出来ないけど、分かるよ。
外から見てる私だからこそ分かることっていうのもあると思う。……信じて欲しいな」
さつきちゃんは、少し考え込んだ後に、小さくこくりと頷いた。
「ありがとう。みわちゃんの言葉なら……信じられるよ」
「こちらこそ、ありがとう。
……で、青峰さんには、謝る、よね……?」
大きな瞳が、右、左。
ぐるっと下に回って、ゆっくりまばたき。
「うん、ちゃんと、謝る」
噛みしめるように、そう言った瞳は既に緊張感を纏っている。
「私に協力出来ること、あるかな?」
「ううん、なんとか頑張ってみる!
もし、ダメだったらまた相談してもいい?」
「うん、いつでも聞くよ」
「ありがとう!」
そう言ってくれたさつきちゃんは、優しい笑顔だった。
そこまで立ち話をして、ふと気付く。
「あっ、お蕎麦の事、忘れてた」
そうだ私達、赤司さんに頼まれて年越し蕎麦を取りに行くんだった。
「みわちゃん……ごめんね。
実は、みわちゃんとふたりきりになりたいって、赤司君にお願いしてたの。
お蕎麦は後で旅館の人が届けてくれるって。
戻ろう」
……赤司さんが用意してくれた場だったのか。