第72章 悋気
……でも、青峰さんも上手に嘘がつけるタイプとは思えない。
あの様子だと多分、彼も必死すぎて混乱して、記憶にないんじゃないのかな……。
……そう思うと、涼太ってホント、慣れてる。
「だからね、人の気配がなくなったのを確認して、言ったの。
大ちゃん、こういうのは好きなひとにする事だって」
うん、だから青峰さんは好きなひとにしてるんだと思うんだけど……。
「そしたら、オマエ、好きなヤツいんのかよって突然聞かれて……」
まだ、その時にはハッキリ青峰さんへの気持ちを自覚出来てなかったはず。
「なんでそんな事聞かれるか分からなかったし、もう訳わかんなくなってて、とにかくこれ以上聞き返されないように……片想いだし、大ちゃんに関係ないでしょって言った」
……思わず額に手を当てた。
それで、青峰さんはあんな風に勘違いしたのか。
「触られた時に、叩いちゃったの?」
「ううん……」
さつきちゃんは、更に耳を赤くして言い淀んでいる。
……しばしの沈黙。
なんだろう。
そんなに言い辛いこと……なんだろうか。
「あの……」
「うん、さつきちゃん、無理して言わなくてもいいよ」
「いや、ううんと、えっとね……」
「青峰さんに、何か言われたの?」
モジモジして、ハッキリしない。
いつもキッパリ物事を言う彼女らしくない。
「もう、これ以上混乱したくなくて、振り払ったの。離してって。
そうしたら、大ちゃんが……待てよって追いかけてきて……」
「うん、うん」
「…………たの」
「ん?」
「だ、大ちゃんのハダカ、見ちゃったの!」
……
…………?
「う、うん、?」
「それで、あの、反射的にバシンと……」
……青峰さんがさつきちゃんのハダカを見たんじゃなくて、逆だよね?
どうして見られた方じゃなくて、見た方が叩いちゃったの?
「えっと……そ、そうなんだ。
何も、叩かなくても」
「だって、だって!
だって大ちゃん、カタチ、変わってたんだもん!」
…………それは……高校男子が好きな女の子の身体に触れたら、自然な反応だと思うけれど……。
ちょっと、青峰さんが気の毒に思えてきた。