第72章 悋気
「さつきちゃん……私、なんか変な事言った?」
さつきちゃんは、肩を揺らして笑っている。
そんな、面白い事……言ったかな?
「あは……ごめんね、違うの。
前に、私がみわちゃんに言った事と同じ事、言われてるんだなって思ったらおかしくなっちゃって」
あ……。
そうだ。
あれは、いつだったっけ。
そう、涼太が私を好きになったきっかけについて、さつきちゃんに相談した時だ。
あの時さつきちゃんは、涼太の事を信じてって、そう言ってくれた。
「あはは……そっか、あの時のみわちゃんと同じ感じなのかな、今のわたし」
「うん、そうだと……思う」
さつきちゃん、あの時はこんな気持ちだったのか。
どうして、こんな風に不安になっちゃうんだろう。
いつもこうやって悩むけど、これはやっぱり……好き、だからだよね。
どうでもいいひとなら、こんな風に悩んだりしない。
私にとって、涼太はかけがえのない大切なひと。
さつきちゃんにとっての青峰さんも同じだ。
大切だから、失いたくなくて、怖くて。
つい疑って、自分を守って。
こんな醜い自分、嫌いだと何度思っただろう。
でも、もうやめよう。
もう、こんなのやめたい。
大切なひとの事、信じよう。
「そっか……ありがとう、みわちゃん」
「わたしね、大ちゃんと抱き合ってるみわちゃんを見て、気付いたことがあるの……」
「最初は、なんか胸がもやもやして……
何故か泣きたくなって、叫び出したくなって……なんでそんなになっちゃうのか、分からなかったんだけど……」
「分かっちゃった、の。
わたし、大ちゃんが……好き」
窓の外から聞こえる雨音のようなひっそりとした声で。
でも、その大きな瞳は強く、真っ直ぐに私に向けられていた。