第72章 悋気
「ごめんなさい、嘘……」
さつきちゃんは足を止めて、小さな声で呟くようにして話しだした。
「見た、っていうとちょっと違うの。
2人がハッキリ見えたのは、周りの電気が点いてからだから……ただその時の状況をみて、そうなんだろうなって思っただけ」
ふと思い出した。
確かにあの時は辺りが真っ暗で、その場に居た私は足元すら見えなかった。
それを、さつきちゃんが居た部屋の窓から見えている訳がないんだ。
「それも、違うかな……そうじゃない筈だって、信じたかっただけかも……」
さつきちゃんは、自分で自分を納得させようと、必死で考えたんだ。
無理矢理にでも、納得するように。
信じようって。
それは、どれほど胸が痛い事か、私は、よく知ってる。
「ごめんね、さつきちゃん……嫌なとこ、見せて。さつきちゃんが言った通りだよ。青峰さんに助けて貰っただけ」
さつきちゃんは安心したように、深く息を吐いた。
「みわちゃんが、きーちゃんの事だけを好きなのは分かってるから。
そんな事、ある筈ないって。
でも……もし、大ちゃんがみわちゃんに片思いしてたら、って不安になって」
え?
まさかの方向転換に、目が点になる。
「大ちゃんは……みわちゃんの事、認めてるし……わたしは、料理もマトモに出来ないし」
さつきちゃんは一体、何を言っているのか。
青峰さんは誰よりもさつきちゃんの事を評価しているというのに。
そして、あんな表情をするほど、さつきちゃんの事が好きだっていうのに。
「さつきちゃん、青峰さんは」
……ここまで言って、思いとどまった。
青峰さんの気持ちは、青峰さんの口から聞かないと。
そうじゃないと、意味がない。
「……青峰さんがああやってさつきちゃんに言うのは、その……気になる子ほどいじめたくなる……っていう心理なんじゃないかな?」
「そうなの、かな……」
「これだけは断言できる。
青峰さんが私の事を好きとか、絶対ないから。
これは、絶対」
「……」
「さつきちゃんは、青峰さんに言われた事だけを信じればいいんだよ」
その言葉を聞くなり、さつきちゃんはクスクスと笑いだした。