第18章 夏合宿 ー1日目ー
「神崎……」
何、なんで。
先輩、どうして!?
「先輩! はなしてください!」
怖い。怖い。
ふりほどけない。
「神崎……好きだ……」
「!?」
腕に、更に力が入る。
「い、痛いですッ……先輩……!!」
「神崎……この間は嫌な事言って悪かった……お前に断られても……諦められなくて、忘れられないんだ……」
腕の力の強さとは対照的な弱々しい声。
「神崎、神崎……」
息苦しい腕の中で、思い浮かんだのは黄瀬くんの顔だった。
「ごめんなさい……お気持ちに応えることが出来なくて……私、黄瀬くんが好き……なんです。
先輩がこの間心配して下さった事も……あるかもしれないのですが……それでも私は、黄瀬くんが、黄瀬くんだけが好きなんです」
そうだ。
誰に何を言われても、私は黄瀬くんが好きなんだ。
それだけでいいじゃないか。
難しいことを考えなくても、その気持ちだけで、いい。
「だから……ごめんなさ」
「神崎!」
「!」
大声で呼ばれて、恐怖で思わず身体が竦む。
一瞬腕が緩んだが、すぐに動けない。
頭を手で掴まれると、唇に何かが当たる感触があった。
「……!?」
気付けば……キス、をされていた。
「ん、んん?!」
身体を捩らせ、抵抗を試みるが全く効果がない。
同じキスなのに。黄瀬くんと何回もしたキスなのに。
背筋が凍るような、悪寒が走る。
気持ち悪い。
「ん……やめっ……」
「……神崎……」
浴衣に手が差し込まれる。
「んん〜! ん〜っ!」
涙が溢れてくる。
血の気が引いていくのが分かる。
いやだ。放して……!
足をバタつかせ、思い切り先輩の股間を蹴った。
「……っ!」
うずくまる先輩。
拘束が解けた。
「ご、ごめんなさい……!」
それだけ言って、後ろを振り向かず走り出した。
怖い。早く、早く部屋に……!
先輩が追いかけてきている様子はない。
急いで部屋の鍵を開け、飛び込んだ。
「はあっ……はあっ……!」
ドアの鍵を閉めると、身体中の力が抜けてその場でへたり込んでしまった。
「はあ……はあっ……」
キス、されてしまった。
黄瀬くん以外の人に……!