第72章 悋気
なんでここは、ベッドルームじゃないんだろう。
湯の中で自由にならない身体に苛つく。
みわの体温だけ感じていたい。
「みわ……」
名前を呼ぶごとに、もっと好きになる。
「涼太っ……」
名前を呼ばれるごとに、更に愛しく思う。
確かなものが欲しい。
そんな事、無理だって分かってる。
言葉なんて、どうとでも言えるって。
オレだって、重みのない言葉をどれだけ重ねてきたか。
でも、欲しい。
ずっと、どこかで孤独を感じていた。
オレは、キセキの世代の1人。
抜群のバスケセンスで、今や国内でもトップレベルのプレイヤーだ。
モデルだってやってるし、業界でもそれなりの評価は得ている。
凡人には分かんないっスよ、オレの事なんて。
自分は特別なんだって言い聞かせる事で、ずっと諦めてた。
誰かの、"特別"になりたい……
その気持ちはみわに出逢って、どんどん膨らんで。
オレ……
誰かの……じゃなくて、
みわの"特別"になりたかったんだ。
「涼太」
熱の籠った目は、真っ直ぐにオレを見据えている。
みわは強くて、優しくて、いつもオレを支えてくれる。
でも、不安がつきまとう。
誰からも愛されるアンタが、腕の中からするりと抜けていってしまいそうで。
温まったみわの細い指先が、オレの左耳のピアスに触れる。
みわから貰ったピアス。
刻まれている文字を思い出す。
今もこれからも、ずっと、オレを愛してくれるって。
本当?
みわ……。
不安な気持ちでみわの手を包むと、優しく揺れる瞳と目が合う。
「涼太、私……涼太だけが、好きだよ。
この先も、一生……あなたしか愛さない」
これは、夢、なんだろうか。
オレの欲しかった言葉が。
一番愛しいひとの 口から。
優しく、口づけを交わす。
これから、何も纏わず、みわの中に入るのか。
頭が、 あつい。
めのまえが
まっしろだ……。