第72章 悋気
「バカなんかじゃ……ないよ。誤解させるような事してしまって、ごめんなさい……」
涼太。
ごめんね。
キスなんかしてなくたって、抱き合っているのを見ただけで、嫌な気持ちになった筈。
私だって、涼太がさつきちゃんと親密そうに歩いているのを見て、胸がざわついた。
ヤキモチって言ったら可愛いけど、あれはそんなんじゃない。
以前涼太に告白した子に抱いたのと同じ種類の感情。
醜い、ただの独占欲だ。
誰にも、誰にも渡したくない。
好き。
誰よりも、私はあなたの事が、好き。
「マジでオレ、カッコわりー……」
私は絶対に、あなた以外を好きになるなんてあり得ない。
どうしたらこの想いが伝わるの?
いくら考えても、分からない。
涼太。
涼太……。
この想いを少しでも伝えたくて、その大きな胸に腕を回した。
ぱしゃん、という音が響いて、私たちの身体を水の波紋が囲む。
その胸に耳を当てて、聞こえる鼓動は彼のものか、私のものか。
こんな気持ちになるのは、初めてかもしれない。
涼太。
私の事を好きになったきっかけ、同情だって魔性だって、もう、なんだっていい。
ずっと私と一緒に居て欲しい。
私以外を好きにならないで。
私だけを、私だけを見て。
ずっと……一生、私に縛られて。
傷付いた涼太の気持ちを分かってあげたいのに。
信じて貰いたいだけなのに。
頭に浮かんで来るのは、自分勝手な欲ばっかり。
「……涼太」
「……ごめん、みわ」
涼太。
大好き。
この想いの伝え方、誰か教えて。
どうしたらいいの。
気持ちをぶつけるようにして、彼を抱きしめている腕に力を込める。
「なーに? みわ。
……誘ってるんスか?」
そう言っておどけた仕草をする彼の耳元で、小さな声で、返事をする。
切れ長の瞳は、驚いたように丸くなった後、夜空に浮かぶ月のような弧を描いた。