第72章 悋気
え……
思わず後ろを振り返る。
……オレ、男湯に入ってたよな?
みわの方へ向き直るのと同時に、赤司っちの顔を思い出した。
コレ、絶対赤司っちの仕業だ。
オレたちのこと、どこまで気付いてるか知らないけど、赤司っちの陰謀だろう。
「みわ、なんかまた混浴になってるっぽい。
誰か来る前に上がった方がいいっスよ」
「あ、うん」
そう言ってるのに、みわはぽちゃりと足を湯につけた。
そのまま、タオルを解いて湯船に入ってしまう。
……湯気でイマイチ見えなかった、なんてこんな時でも思うオレは、ホントに不謹慎だと思う。
きっと、寒いんだろう。
でも、他の誰かが来たら大変だ。
「多分、赤司っちの仕業。
オレ、出て赤司っちんトコ行って来るからさ、みわも脱衣所に戻って待ってて」
そうとなったら、急いだ方がいい。
「じゃ、オレ行くから」
返事を待たずにそう言って、頭の上に置いていたフェイスタオルを手に取り、上がるのと同時に腰に巻き付ける。
芯まで温まっていないからか、すぐに身体は冷えてしまいそうだ。
「涼太! 待っ……」
バシャン!
それだけ聞こえた後、激しい水の音がしたと思ったら、みわの声がしなくなった。
……ちょ、え、まさか!?
驚いて振り返り、先ほどまでみわが入浴していたあたりに目をやっても、その姿はない。
「ちょ、ちょ、みわ!?」
慌てて湯に戻り、ザバザバと熱い湯をかき分けるようにして進むと、みわが沈んでいるのが目に入った。
「みわ!!」
ちょ、マジっスか!!
とにかく無我夢中でその身体を抱き上げた。
「……ぷ、はっ!」
「みわ!! 大丈夫!?」
「げほっ、げほ、滑っちゃっ、て」
マジで、心臓が止まりかけた。
ホッとしてみわを見下ろすと、熱い湯のせいで紅潮した裸体が目に入る。
その色っぽさに、思わず目を奪われた。
「あっ……と、とにかく誰か来たらまずいから、オレ」
「……から」
「え?」
「誰も……こないから、平気、だよ」
みわは、オレの腕を強く掴んだまま、そう言った。