第72章 悋気
少し重量のあるドアを押し開くと、待ち構えていたかのような冷気たちが一斉に肌を打つ。
寒空と協力して景色を濡らしていた雨は、いつの間にか上がっていた。
「さっむ……」
石が敷き詰められたようなデザインの道は冷え切り、足の裏が痛いほどその冷たさを受け止めている。
「ムリムリ、これムリっス」
冗談でなく、早く湯に入らないと凍え死にそうだ。
滑らぬよう細心の注意を払って、足早に露天風呂へ向かう。
モデルの仕事中のような早さで腰のタオルを解き、まるで飛び込むかの勢いで湯に足を入れた。
「うぉ、あっつ!」
指先が痺れたかと思ってしまうほど、湯は熱く感じた。
足が冷え切っていたせいか。
……そう言えば前に、みわと風呂に入った時、異様に熱がってたこと、あったよな……
「……みわは冷え性だからな」
なんとはなしにその名前を呟くと、胸が締め付けられるような感覚に陥った。
ゆっくりと膝を折り身体を沈めていくと、温度に身体が慣れてくる。
全身の力を抜くと、ふわりと湯が身体を包み込んだ。
「あー……サイコー……」
……みわにはみっともないところを見せた。
網膜に焼き付けられたかのように、みわと青峰っちが抱き合っているシーンが忘れられない。
みわは渡さない。
でも、みわの気持ちは?
彼女が青峰っちのところに行きたいと言ったら、別れられるのか?
それがみわの幸せなんだって、諦められるのか?
……そんな殊勝なコト、出来んのかな。
そこまで考えて、赤司っちの言葉を思い出した。
ここにオレが求めているものが、あったか?
ウィンターカップの疲れを癒したかった?
結局、なんだったんだろう。
後で、赤司っちに聞けばいいか。
改めてふう、とひと息つくと、前方の湯けむりがゆらりと歪んだ。
……人影?
誰か、いるみたいだ。
脱衣所で特に気にも留めなかったけど、他に荷物があっただろうか?
ぼんやりとした人影が近付くにつれて、その姿が段々とハッキリしてくる。
……え……?
白いタオルを巻いた、その華奢な身体つきは……
「……みわ?」
「涼太」
みわが、目の前にいる。