第71章 悋気
「……自信、が、ですか?」
その現実感のない言葉に、マヌケ面を晒しているというのはよくわかっている。
「ああ、少し語弊があったかな。黄瀬は自信満々だと思うよ、基本的には」
……そう。
彼の自信に満ちたプレー。
あの逞しい背中、大好き。
普段だって、ちゃんと自分の魅力を自分で分かってるひとだ。
「黄瀬涼太という男については、最早俺たちよりも神崎さんの方がよく分かっているとは思うけれど」
「いえ、そんな」
「あの外見に、人の良さ。同じ男から見ても、普通の人間よりも沢山のものを持っている事は分かる」
無意識に大きく頷いてしまう。
そうだ。あのひとは特別なひと。
何度も反すうしてきた。
「ただ、黄瀬には自信を持って『自信がない』ものがあるんだと思う」
「……???」
赤司さんの言っている意味が……分からない。
「すまない、言葉遊びをするつもりはないんだが」
その優しげな淡い笑顔に、理解が追いつかない自分の頭の悪さを申し訳なく思う。
「俺にはなんとなくだが……分かる気がするのだよ」
緑間さんは、分かるんだ。
ますます申し訳ない……。
「ファンは、その芸能人1人だけを好きでいなければならないというものではない。勿論、たった1人だけを好きという子もいるとは思うが、そんなのは全体の何パーセントだろうな」
そうか。
きっとそういうものだよね。
歌手ならこのひととこのひとが好き。
俳優なら、モデルなら…
それこそ、ファンになるのに上限なんかない。
「それに、ファンというのは非常に一方的なものだ。環境が変わり、なんとなく興味がなくなった。それだってよくある事で、誰もそれを咎めることなど出来はしない」
……。
「黄瀬はその世界の一端に身を置いている。人のこころは移ろいゆくものだという事を、誰よりも痛感しているんだろう。
前へ前へ、更に先を求める故に、渇望しているんだと思うよ、嘘偽りなく、永遠に自分だけを愛してもらうことを」
それは、私からは想像もつかないこと。
でもきっと、赤司さんも緑間さんも涼太側の人間だから、彼の気持ちが分かるんだろう。