第72章 悋気
分かってる。
ホントは、分かってる。
自分以外の誰かを、自分のものにしたいだなんて、間違ってるってこと。
そんな権利はないし、誰が誰を想おうと、それは自由だって。
みわを大事にしたい、大切に守っていきたいといつも思っているのに、ちょっとした事でこうして悩んで、傷付けて。
こんな自分は、彼女の側にいるのにはふさわしくないんじゃないかって。
黒子っちみたいに、影として支えてあげられるわけでもない。
緑間っちみたいに、頭が良くない。
紫原っちみたいに、自由でこころが休まるような空気もない。
赤司っちみたいに、ひとの気持ちが手に取るように分かるわけでもない。
青峰っちみたいに……強くない。
フタを開けてみれば、劣等感だらけだ。
オレはどうだ?
ちょっと普通より外見がいいだけの、空っぽな人間。
今、みわは、何を考えているんだろう。
こんな気持ちでしたキス、集中なんか出来るわけない。
ひたすら気を引くように、啄むように唇を重ねているだけだ。
思い切り力を込めて抱き締めたみわが、押し返すような抵抗を見せた。
あぁ……
そうだよな……
サイッテーな事、した……。
ガキの仕返しみたいに……。
みわが青峰っちの事を好きになったのなら、彼の前で見せつけるようにしたこの行為は、みわを酷く傷付けるものだろう。
でも、傷付けてしまいたいという歪んだ欲が顔を出す。
傷付けて、傷付けて、オレのこと、忘れないでって。
オレの名前を呼んで。
「青峰さん……」
でも現実には、オレの唇から解放されたみわは、静かな声で彼の名前を呼んだ。