第72章 悋気
「涼太……」
そう言ってオレを呼ぶみわの表情には、焦りが見える。
「みわ」
まさか……みわと青峰っちが口裏を合わせようとしているところに居合わせるなんて。
みわがオレのベッドに寝ている事は誰にも言ってなかったから……部屋に戻って行った青峰っちを追いかけてきたら、まさかまさかのこんな事態。
……さっき黒子っちに言った言葉に偽りはない。
みわを疑うような男にもなりたくない。
そう思っていた矢先の事……。
「……何スか、今の」
自分から問いかけているのに、答えは聞きたくない。
でも、聞かないとおかしくなりそうだ。
「ちっ、違うの、涼太」
明らかに狼狽しているその姿に、頭が熱くなる。
「何が違うんスか?」
それなのに、口から出る言葉は自分で思うよりもずっと冷たくて。
青峰っちとキスした事、オレに話したかどうか確認して、どうしたかったの?
オレにバレたらまずいって思ってたって事?
例え二股になっても、オレとは離れたくなかったって、事?
「黄瀬、……」
青峰っちが、何か言ってる。
音が遠すぎて、聞こえねーっスよ。
……みわは渡さねーよ。
「涼太、あのね」
困った表情でオレに歩み寄ってくるみわの腕を引き、勢い良く唇を奪った。
「……っ!?」
男のオレとは違う、細くても柔らかみのある身体を強く抱き締める。
目一杯、力を込めて。
「……ぅ」
こんな、締め上げるような力で抱き締めて……
ギシギシと、骨が悲鳴をあげる音が聞こえてきそうだ。
みわは、抵抗しない。
苦しいだろうに。
……怖がってんの?
みわを苦しめている、自分勝手な男達と同じ事をしているのか、オレは?
みわ、
どうやったら、
オレとずっと一緒に居てくれる?
オレには、やっぱり……
無理なのか?
纏まらない頭で、柔らかい唇を吸い続けた。