第72章 悋気
びくんと大きく跳ねた細い身体は、腕の中でくたりと脱力していく。
何度目かの絶頂を迎えたみわは、意識を飛ばしていた。
起きている時よりもずしりと重くなった身体を抱き上げると、オレのベッドへ横たわらせ、ベッドサイドのランプを点けた。
暖色系の明かりに照らされたオフホワイトのトレーナーの胸元は浅く上下を繰り返し、頬は涙に濡れている。
序盤、塞ぐように指を突っ込んだ小さな口からは、唾液が流れている。
明日、目が腫れてしまうかもしれないな、なんて呑気なことを心配しながら、その目元と口元を、優しく拭った。
……歪んでる。
快感を与えて恋人を繋ぎ止めようなんて、歪んでる。
分かっている。
こんな事で彼女を繋ぎ止められるわけがないと。
みわの気持ちだって、信じてない訳じゃない。
それなのにどうして、こんなにも不安になって、こんなにも独占したくて、こんなにも狂わされる。
欲しくて、欲しくて。
こんなに醜い自分は、知りたくない。
どうして、キレイなだけでいられないのだろう。
純粋に、愛しいと想う気持ちだけを持っていたい。
「……みわ」
それは、オレにとって特別なひとの……大切な、大切なひとの名前。
この瞳が他の男を映したというだけで、この唇が他の男に触れたというだけで、マグマのような熱いドロドロした塊が次々と生み出されてくるのが分かる。
爆発するのなんて、時間の問題だった。
「オレを……オレだけを見てよ」
どうしてこんな気持ちになるんだろう。
ぽつりと呟いて、閉じたままの瞼に口づけを落とした。
卒業前に、再びアメリカに行ける事になるなんて思いもしなかった。
大学に進学して……卒業して……その時オレは、どうしているんだろう。
その頃には成人済み。
オトナになって酒を飲んでる自分は、まだ想像出来ない。
新しい世界……新しい出会い……
……いちいちこんな嫉妬してたら……
呆れて捨てられるっスね……
ずっと、一緒にいたい。
そう、思っていた。