第72章 悋気
もう、どいつもこいつもなんなんだよ。
ついそんな風に毒づきそうになる。
今度は、みわと黒子っちが……
黒子っち、何の用スか?
「みわちゃんって、モテるんだな〜」
「……高尾クン」
高尾クンは含みのある笑顔で、こっちを見ている。
みわから何か聞いたんだろうか。
それとも、オレがいない間に何かあった?
……黒子っちは……まだみわの事を諦めてないのか。
黒子っちの観察眼なら、オレがみわと微妙に距離を置いている事に気がついたかもしれない。
それでまた、アクションを起こそうと思ったのか。
さっき、みわは赤司っちや緑間っちと何を話してたんだろう。
それに、さっきの青峰っちとのキス……。
ああ、頭ン中がぐちゃぐちゃする。
いつも、こういう時はどうしていたんだっけ。
「黄瀬」
「……なんスか、赤司っち」
「お前らしくないな」
椅子に片手をつき、体重を預けるその姿はどこか妖艶さがあり、前髪の短さが醸し出す若干の幼さとは対照的だ。
物腰は柔らかいが、どこかつかみどころがない。
赤司征十郎という男は、こうしていつの間にか人を魅了し、支配していく立場にいる人間なのかもしれない。
さっきから、なんでも分かってると言いたげなこの微笑み。
「……なんなんスか、さっきから」
もう、今この苛立ちを隠せる余裕はない。
新年早々場の空気が悪くなろうが、抑えられそうにない。
「行動せずにゴチャゴチャひとりで悩んでいるうちに、大事なものを失ってしまう……お前が一番分かっているだろう?」
今行かなきゃエースじゃない、そう言って痛む足をおしてコートに舞い戻ったのはもう、2年前か。
この2年で、様々な事があった。
大切なひとが出来た。
責任のある立場になった。
自分を取り巻く環境が変わっていくにつれて、昔のようにただ純粋に自分のやりたい事だけを貫く事は出来なくなって、段々とそれに慣れていく自分がいた。
それが、大人になっていくことなのかもしれない。
でも、オレは。
オレは頭で考えるより先に、今はもう痛むことのない足で走り出していた。