第72章 悋気
「桃井、神崎さん。悪いが、年越し蕎麦を運ぶのを手伝ってもらえないか?」
赤司っちにそう声を掛けられて、みわと桃っちは部屋を出て行ってしまった。
あの2人も、いつものような空気ではなかった。
どこか気まずいような、後ろめたさを感じるような。
2人が出て行って暫くすると、青峰っちがやって来た。
部屋に入って来るなり、緑間っちに何かを話しかけている。
オレを気にしている様子はない。
いつも通りの彼は黒子っちの隣に座ると、テーブルの上に放置されていたトランプを掻き集めて、新しくゲームを始めた。
みわと、何を話してたんスか?
それに………………
オレに、なんか言うことないんスか?
「黄瀬、顔が怖いぞ」
「……へ?」
赤司っちに突然そう声を掛けられて、自分の頬に触れる。
「オレ、なんか変なカオしてたっスか?」
「青峰を睨み殺さんばかりの凄い目つきだったからな」
……全く自覚がなかった。
こんな気持ちのままじゃ、ダメだ。
ハッキリさせないと。
分かっているのに、ハッキリさせるのが怖い自分もいる。
「お待たせしました〜!」
そうこうしているうちに、みわと桃っちが戻って来た。
どことなく、気まずそうな空気が和らいでいる気がする……?
気のせいか?
時計を見ると、もうあと僅かな時間で新年を迎えてしまう。
今年は年越しをみわと一緒に迎えられると喜んでいたはずなのに、なんでこんな事になってしまったんだろう。
もやつく気持ちの中でも、年越し蕎麦はめちゃくちゃウマかった。
それから、皆で少し話をした。
ウィンターカップのこと、これからのこと。
そうして……
「皆、年が明けるよ!」
全員でカウントダウンをして……
……新年を迎えた。
今年は、卒業の年。
新しい生活が始まる年だ。
酸素濃度がすっかり薄くなった部屋に、新しい空気が入り込む気配。
誰かが部屋から出て行ったのか……と思い部屋を見渡すと、みわと黒子っちがいなくなっている事に気が付いた。