第72章 悋気
「黄瀬、桃井、遅かったな」
集合場所として知らされていた場所には、赤司っち以外の面々は既にいなかった。
気軽なレストランがあるのかと思いきや、赤司っちが案内してくれた場所は『食事処』と表現するにふさわしい場所だった。
窓の外にはライトアップされた日本庭園。
掘りごたつ風になっているテーブルの上には、彩鮮やかな料理たち。
焼いた川魚に至っては、串に刺さった状態で花瓶のようなものに、まるで飾られているようかのような盛り付けだ。
「赤司君、ここって本当にお金払わなくていいの……?」
「ああ、構わないよ」
桃っちの質問に、学校の紙パックジュースを奢るくらいの軽さで、しっとりとした微笑みを浮かべたまま赤司っちはそう答えた。
……赤司家、恐るべし。
でも、折角だし遠慮なく堪能させて貰うっスよ。
「後は青峰と神崎さんか。
神崎さんは黄瀬が連れて来ると思っていたが」
2人の名前に、胸焼けのような不快感を覚える。
「ああ……部屋にいなかったみたいだから、先に……こっちに来てるかなって、思ったんスよ」
「……そうか」
赤司っちはそれ以上、追及して来なかった。
間も無く、みわと青峰っちがやって来た。
みわの頬が染まっているように見える……のは、ただの思い込みだろうか。
みわは、座るなり隣の緑間っちに何か話しかけられている。
談笑する姿に、沸き立つ苛立ちを隠し切れない。
その2人の会話に、高尾クンまで混じってきた。
会話の内容が全く頭に入ってこない。
耳が聞こえなくなってしまったかのようだ。
それなのに、耳鳴りのような不快な音は絶えず流れ続けている。
「きーちゃん」
隣の桃っちが、覗き込むようにして話しかけてくる。
「きーちゃん、大丈夫?」
相当酷い顔をしていたのか。
「ん、大丈夫っスよ、アリガト」
みわ達に視線を送るのをやめ、桃っちとあれやこれや言いながら食事を進めると、ドロドロした気持ちが少しだけ鎮まった気がした。