第72章 悋気
「何もしてないって……じゃあ、だって」
そんなわけない。
いや、決して何かあって欲しいわけじゃないけど、何にもない方がいいに決まってるけど、さつきちゃんのあの態度。
絶対に、何かあったんだ。
「いやらしい事って……神崎、オマエ相当黄瀬に毒されてんじゃねーの」
「えぇっ……」
自分でも、顎から額まで熱くなっていくのが分かる。
……確かに、イタズラ好きの涼太に影響されてるかもしれないけど……などと呑気に納得している場合じゃなくて。
「青峰さん、茶化さないで下さい。
もう一度、ちゃんと聞きます。
さつきちゃんに、何をしたんですか」
「何もしてねーって言ってんだろ。
さつきに……出来ねーよ。
アイツを汚すような事、できっかよ……」
その声を聞いて、思い出した。
さつきちゃんを抱きしめた、あの時の青峰さん。
大切な、大切なものを壊さないように……
そんな優しさ、だった。
でも……
「で、じゃあ、ど、どうしてひっぱたかれる結果になったんですか」
意を決して聞くと、目線を下に落としていた青峰さんが目を剥いた。
「なんだよ……気付いてたのかよ」
「そりゃあ……あれだけくっきり跡がついてたら……」
流石に鏡は見ていなかったのか。
あれだけクッキリついていたもみじマーク。
「じゃあ赤司も黄瀬も気付いてたってのかよ……クソ、最悪だな……」
気付いてたどころか、2人で完全に楽しんでいたなんて、そんな事言えやしない……。
「でけー露天風呂に入ってたら、向こうの方に人影が見えたから……
テツか赤司あたりかと思って見に行ったらよ、何故かさつきが、いたんだよ」