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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第72章 悋気



無言で、廊下を歩く。

床は質の良いカーペットのようなものが敷かれていて、足音は響かない。

彼と私ではかなりの身長差があるのに、2人の距離は広がらない。

歩幅を合わせてくれているんだろう。

青峰さんは、客室がある方向とは真逆の通路を歩き、日本庭園のような造りになっている中庭のような場所へ出た。

どうやら、位置的にはちょうど宿の裏側のようで、遥か前方に見える裏門からは、黒っぽい車が出て行くのが見える。

それにしても、寒い。

上着も何も持たずに来たから、年末のこの寒さは体にこたえる。


「……わりぃな、寒いだろ」

「あ……いえ、大丈夫です」

普段、涼太と話す時の彼とは全く異なる素直な言葉に、キョトンとしてしまった。



「……」

「……」


沈黙。


立ったまま寝ているのか、起きろ、と喝を入れるかのように、冷たい風がビシビシと頬を打つ。

沈黙を破ったのは、青峰さんだった。

わしゃわしゃと頭を掻き、苛立った様子。



「……クソ、うまく言えねー」


「何か、相談でも……?」

「いや、相談っつーか……」

煮え切らない返事だ。
さつきちゃんのこと、だよね?

青峰さんが話さないのなら、私から聞きたい。


「……青峰さん、私、青峰さんに聞きたい事があるんです。さつきちゃんに、何したんですか!?」

戸惑うように揺れていた青峰さんの肩が、ピタリと静止した。


「……さつき、なんか言ってたのか」

この暗さで、顔色の変化までは読み取れない。

でも、その声色ははっきりと変化を見せた。
……恐る恐る、という表現が一番近いだろうか。

「言ってないですよ……何も言ってくれないし、様子がおかしいから……」

「……そうか」

「青峰さん、誤魔化さないで下さい。
さつきちゃんに、何したんですか」



「してねーよ」


「は……? なんか、さつきちゃんにいやらしい事でもしたのかと」


「出来るかよ、んなこと。

出来たら苦労しねーよ……」


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