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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第72章 悋気


「アイツ、タオルも何も持たねーで入ってやがるからよ」

「だって、タオルを持って入らないのはマナーですから……」

「さつきと同じ事言うんじゃねーよ、分かってんよ、ンな事ぁ」

ああ、つい話が脱線してしまう。

段々分からなくなってくる。
何を話したかったんだっけ?

「そ、それで?」

「なんでここにいんだって話してたら、男の内湯から誰か来るのに気付いて、咄嗟に隠れたんだよ」

「……青峰さんも、隠れたんですか?」

「だから、咄嗟にって言ってんだろ……」

「す、すみません」

慌てている姿が目に見えるようだ。

こんなに萎れた……というか、歯切れの悪い青峰さんは初めてで。

さつきちゃんだけじゃなく、彼もいまだに動揺していることがよーく分かる。



「他のヤツに見せるわけにはいかねえだろーが」

口の中だけでポソリとつぶやくようなその声は、どこか言い訳めいていた。


「……それで?」

「あ? それだけだよ」

「…………?」

思わず首をひねる。
だめだ、やっぱりなんか変?

それだけなはず、ないんだって。

……うーん、これはやっぱり
さつきちゃん側の意見を聞かないと分からない気がする……。



「神崎、アイツの好きなヤツ、聞いたことあるか?」

「……はい……?」

さつきちゃんの、好きな、人?

「アイツ、好きなヤツいるみたいだからよ……
片想いしてるんだと。
わざわざ隠すあたり、テツじゃねーと思うんだけど」

「えと……誰がそんな事、言ってたんでしょうか?」

「さつきに決まってんだろ、今さつきの話してんだからよ」

「あ、そ、そうですよね」

なに?
何の話?
さつきちゃんが好きなひとって……

青峰さん、だよね?

でも、まさか本人の居ないところで私が言うわけにはいかない。

なんて言えばいいんだろう……。

「あの、ええっと……」

「……やっぱりいいや、なんでもねー。
今ここであったこと全部、忘れてくれ」

「……?」

「オレがここで神崎から聞くのは、フェアじゃねえよな。
……わりぃな、わざわざ来てもらっておいて」

「あ、いえ……何のお役にも立てませんで……」


気まずい沈黙が流れると、それを遮るかのように、頬に冷たいものが当たった。



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