第18章 夏合宿 ー1日目ー
みわっちが笑顔でオレたちの部屋に入ってきた。
浴衣のオレたちとは対照的に、まだTシャツ姿。
きっと、練習が終わってから全く休憩などないのだろう。
「はいっ、失礼します!」
みわっちは、物凄い量のノートを持ってきていた。
「神崎、なんだそのノート?」
「あ、これはそれぞれ皆さんの状態を記したノートです」
「……まさか、全員分、あるのか?」
「はい、全員分あります。ただ、毎日毎日全員のノートに同じだけ記録できるわけではないので、情報量にはムラがあるのですが……」
サラッとそう答えたみわっち。
どこからか、「マジかよ……」
という声が聞こえた。
オレも驚いた。
普段のあの忙しさで、一体どこでそんな記録をしているというのだろうか。
確かに、彼女の作る練習メニューやアドバイスなどは的確だ。
まるでバスケを最近覚えたばかりとは思えないほど。
そのノートには、彼女の努力が全て詰まっているのだろう。
「神崎、俺、自分の見ていいか?」
センパイたちが次々と集まってくる。
「あっハイどうぞ……字も汚いし、大したこと書いていないですが……」
オレも、表紙に『黄瀬涼太』と書かれたノートを手に取った。
みわっちの字で、オレの名前が書いてある。
普段はメールでの連絡ばかりだから、手書きのその文字はとても新鮮だった。
今日の体調や練習での癖、マッサージした結果や今後についてなど、オレに関する様々なことがみわっちの字で書かれている。
オレだけを見ていた時の記録だ。
「はいっ、次いきますよ」
見ると、マッサージを終えたセンパイが、気持ちよさそうに布団で眠っている。
みわっちが笑顔で掛け布団をかけ、ノートに何かを記録してから、次のセンパイのところへ移動している。
マッサージ中に眠ってもいいよう、配慮してくれているらしい。
みわっちのマッサージは的確で、気持ち良い。
きちんと基礎を学んでいるみたいだ。
過酷な合宿の練習を終えた身体では、1分と保たず眠ってしまうだろう。
多くは語らず、疲れたとの愚痴もなく、柔らかい笑顔でマッサージを進めていた。