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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第72章 悋気


館内履きのスリッパのせいでもつれる足を……スリッパのせいだと思いたい……フル回転させて脱衣所の入り口に到着すると、右手にある男性用脱衣所から、大きな人影が現れた。

その高校生離れした体躯は……

「……あれ……紫原さん?」

紫原さんだ。

浴衣姿で、手には衣類を持っているところから、彼も入浴していたのだろうか。

「神崎ちん、なに〜?」

今年のインターハイに会場で会った時に呼ばれた『神崎ちん』という呼び方。

知人として認識してもらえてるみたいで、なんだか嬉しい。

……じゃなくて。



「紫原さん、青峰さんと一緒だったんですか?」

青峰さんがお風呂から戻ってきてから、そんなに時間は経ってないから、顔を合わせているはず。

もしかして、紫原さんもさつきちゃんに会った?

そこでトラブルになった?

そう思ったのに、紫原さんは予想外の返答をした。


「峰ちん? カゴに着替えがあったから誰かいるのかと思ったけど、中には誰もいなかったけど?」

「え……」

「でもオレが上がったら荷物もなくなってたから、洗い場にでも行ってる時に行き違ったんじゃない〜?」

「えっと、他に……誰かいませんでしたか?」

「だから、中には誰もいなかったってば〜」

「そ、そうでしたね……すみません」


どういう事だろう。
紫原さんは2人に会っていない?

でも、青峰さんのあの頰……
青峰さんとさつきちゃんが
会ったのは確実だ。

「すみません、私行きますね」

訝しげな表情の紫原さんにぺこりとお辞儀をしてから、脱衣所へと足を踏み入れた。





「さつきちゃん!」


白い壁に囲まれ、広く清潔な脱衣所を見渡すと、洗面台の前でタオルを体に巻いたまま、座り込んでいるさつきちゃんが目に入った。

「みわちゃん」

その表情は、惚けているようにも見える。

「さつきちゃんごめんね、遅くなって」

「あ、うん……」

さつきちゃんは立ち上がらない。

「さつきちゃん、どうしたの? 大丈夫?」

差し伸べた手に触れた細い手は、震えているように感じた。


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