第72章 悋気
混浴?
え?
だって、女性用の暖簾をくぐっていったんだよ?
「あ、赤司さん、混浴って、だって、え?」
「神崎さん、落ち着いて」
「え、だって、入り口分かれてますよね?」
「ああ、中で繋がっているんですよ」
「ええ、だってそれじゃ、混浴じゃない時間はどうするんですか?」
「浴場に繋がるガラス戸を出たところにある通路を切り替えるんですよ、電車のコース変更みたいにね」
どういう造りになってるのか、その発言からは想像もつかないけれど、かなりお金のかかった大掛かりな設備だというのは確かだ。
赤司家、一体どうなってるの。
「どうしてそんな事……」
「どうしてって? その方が、面白いじゃないですか」
さらりとそう言って、
全く悪気のない、柔らかな笑顔。
そのキレイな赤い髪から、悪魔のツノが生えているように見えた。
……え……っと……
混浴で……
今、さつきちゃんが入ってて……
涼太の話だと、青峰さんも入ってて……
「さつきちゃんが!」
さつきちゃんの身を案じ、大浴場へ向かって駆け出した私の腕を、ガシリと何かが掴んだ。
振り返ると、掴んでいるのは赤司さん。
キセキの世代の中でも小柄な彼だけれど、私の腕を掴む力はかなりのものだ。
「あの、赤司さん、私……」
「神崎さん」
「はい」
「神崎さん、人の恋路を邪魔する奴は?」
「……馬に蹴られて死んじまえ?」
私がそう言うと、よくお分かりで、と言わんばかりの微笑みを返された。
涼太も、大浴場に向かう様子はない。
「神崎さん、今から緑間達とトランプでもやろうかという話になっているんですが、どうですか?」
……ええっ!!
さつきちゃん、どうしよう!!!
どうしたらいいの!!!!