第72章 悋気
「それじゃ皆、また後でね!」
昼食を取った後、駅前で一旦解散する事にした。
近くに実家がある面々は、一度家に戻り、荷物を取りに。
私は、一度家に帰ると時間がかかってしまうので、安い衣料品店で下着だけ購入する事にした。
今日私はバスケはしないけど、もしかしたら必要になることもあるかも……と、下着以外の着替えは準備していたのが良かった。
涼太も鞄の中に着替え一式を持っていたので、そのまま宿に向かう事が出来る。
15時にはチェックイン出来るとのことなので、各自荷物を持ったら、現地集合する事になった。
「まさか、こんな流れで急遽旅行になるとは思わなかったよ……」
「いいんじゃないスか、ちょっと強引なくらいじゃないと、あのメンツで旅行なんて絶対無理っしょ」
今、私は涼太と2人で宿に向かっている。
そういえばこの辺りは、雪が降ったりするとよくテレビ中継をやっている駅。
更にそこから、JRなのに聞いたこともないような名前の線に乗り継いでいく。
どんどんと山奥へ向かっていくような感じだ。
リハビリセンターに行った時も思ったけど、とても東京都とは思えない。
車窓から目に入る景色の中の建物が少しずつ低くなり、緑色の割合が増えていくにつれて、旅行をするんだという実感が湧いてくる。
「みわ、ご機嫌っスね」
「……え……分かっちゃう?」
「うん、ほっぺたが緩みっぱなしっスよ」
そう指摘されて頬に触れると、確かに口角が上がって、頬はだらしなく緩んでいるのに気がつく。
だって、楽しみで楽しみで仕方ない。
「ちぇー、みわとふたりきりで温泉旅行行きたかったっス」
そう言って抱き寄せられると、厚いコートの上からでも涼太の心臓の鼓動を感じてしまいそうなほど、身体が密着する。
「今度は2人で行こう、みわ」
「う……ん」
甘く耳を擽る声。
コートでの雄叫びとは全く異なる……
空いているとは言えない車内なのに、他の音が何も聞こえない。
私、重症かも……。
2人で旅行……ちょっと想像出来ないけど、それもすごく楽しそう……。
「やっぱ、貸し切り露天風呂でエッチ……いて」
「公衆の面前でやめなさいっ!」
半ば予想していたその発言にピシリとツッコむと、涼太は嬉しそうにつつかれた額を撫でた。