第72章 悋気
「赤司君……今晩からって……
今日、ってこと?」
さつきちゃんも私たちも、赤司さんのその発言にポカンと大口を開けてしまっている。
「宿を手配する事ならできるが」
そう言って、スマートフォンで見せてくれた画像は、温泉付き宿泊施設のものだった。
住所は、都内の外れ。
ここからなら、2時間もかからずに行ける所の筈。
凄く綺麗な建物。
和風なのに、瀟洒と表現しても差し障りのない造り。
都内とは思えない渓谷の中に建てられたその旅館は、とても高校生が気軽に宿泊出来るようなものに見えない。
宿泊なんて、高そうだけど大丈夫なのかな……?
赤司さん曰く、赤司家所有のものだから費用に関しては気にすることないよ、とのこと。
そんな、はいはいと甘えてしまってもいいものなの!?
確かに、以前少し聞いたところによると、赤司さんの会社というのは、農業から貿易業からと、様々な分野へ手を広げているらしい。
宿泊業も営んでいるのか、はたまた赤司家の別荘なのかは分からないけれど……。
とりあえず、全く想像もつかない世界だということはハッキリと分かる。
「いいじゃないスか!」
イベント好きの涼太は乗り気。
青峰さんは、呆れたような諦めたような顔。
さつきちゃんの発案にはそもそも反論する気はないのかもしれない。
その他のメンバーの顔には、ありありと不安の色が浮かんでいる。
「俺は夜に約束があるのだよ」
「高尾君も呼べばいいじゃないか、緑間」
「……」
「いいじゃない! こんな風に皆で集まれるのも最後かもしれないんだから、皆で年越ししようよ! ね?」
こうして、さつきちゃんの涙目での懇願には誰も勝てず、急遽年越し温泉旅行が決定した。