第72章 悋気
「さつきの料理は殺人級だからな」
青峰さんは、相変わらずの口調だ。
さつきちゃんは、何も言い返さなくなってしまった。
「青峰さん、そんな風に言うこと……」
言いかけて、タイミング良く……なのか、この場合悪くなのか、涼太が戻って来た。
目が輝いてる。
何か良いことがあった時の顔だ。
「黄瀬、えらくご機嫌だな」
いち早く気が付いた赤司さんが早速、涼太に声をかけた。
「そうなんスよ! 招待されたんス!」
招待?
何に?
「オマエ、やっと連絡来たんかよ。
オレんとこには昨日来たぞ」
ここでまた、まさかの青峰さん。
他に同調する人がいないところを見ると、招待されたというのは2人だけなんだろうか?
「そうなんスか? 早く言って欲しかったんスけど!」
「何に招待されたんですか?」
私が口を開こうとした途端、全く同じタイミングで黒子くんが2人に問いかけた。
「去年夏、アメリカの大学での国際交流バスケキャンプみたいなのに行ったんスけど」
「ええ、聞きましたよ」
「2月から3月にかけて冬季のキャンプもあるみたいで、それに招待されたんスよ!
費用は勿論向こう持ちで」
「ええっ!」
いけない、一際大きい声で驚いてしまった。
テーブルについている面々に加えて、周りのお客さんまでこちらをチラチラと見ている。
でも、だって、すごい。
「大ちゃんも、きーちゃんも凄い!
どうしてそんなチャンスが?」
「いや、なんかその大学のヒトがウィンターカップを観に来てたみたいなんスよね。それでオレたちの事を気に入って貰えたみたいっスよ」
涼太らしい、非常に大雑把な説明……。
でもとにかく、チャンスが出来たんだ、本当にすごい!!
いつも隣にいる涼太は、時折とても遠い人に感じる。
ううん、元々、手の届かないひとなんだ。
分かってる。
私みたいに平凡でなんにもない人間と並ぶようなひとじゃないってこと。
それでもやっぱり、私はこのひとが好きだ。