第72章 悋気
「少しならありますけど、持って行かれますか?」
「そんなに色んな効果があるってんなら、貰うわ」
「みわちゃん、私も欲しい!」
さつきちゃんも気に入ってくれたみたい。
もし足りなかったら……と思って、茶葉を少し持ってきていて良かった。
鞄から1回分ずつ小分けにした紅色の茶葉が入ったビニールのパウチを取り出した。
それを見た青峰さんが、少し眉を顰めた。
「……めんどくせーのはわざわざやんねーな」
そっか……茶葉で淹れるのって、慣れないと面倒臭いよね。
いくつか、市販のお茶パックを使って手作りしたティーバッグも持って来ている。
それならどうだろう?
「ティーバッグの方がいいですか?
手作りなんでちょっと安っぽいですけど、飲む分には問題ないですよ」
「んじゃそれ貰うわ。サンキュ」
「さつきちゃんもティーバッグの方がいい?」
「わーい! ありがとうみわちゃん!」
青峰さんは、受け取ったティーバッグを入れたビニールをしげしげと見つめながらポツリと漏らした。
「なんか……すげーのな」
「?」
すごい?
何が?
「いや……普段さつきレベルしか見てねーから、こんなにアレコレ出来るもんなのかと感心すんわ」
「大ちゃん! それどういう意味!?」
私の左側の青峰さんと、右側のさつきちゃんに挟まれている私。
け、ケンカ、しないで〜!
「そのまんまの意味だけど。ああ、でもレモンのはちみつ漬けは、神崎に教わってようやく輪切りになったな」
からかうように笑う青峰さん。
「そんな、こんなの大したことじゃないよ!
ケンカしないで!」
そう言えば、さつきちゃんのかつての差し入れ"レモンのはちみつ漬け"は、レモンが輪切りにされる事なく、丸々入れられていたんだっけ……。
私が何か教えたように言われたけど、特別何か教えたなんて事はしていないんだけどな。
ただ、切った方がいいよって、一緒に作っただけで……。
確かにさつきちゃんは料理が少し苦手みたいだけど、そんな風に言うことないのに。
どうやら、さつきちゃんの"まるごとレモンはちみつ漬け"は皆の共通の記憶らしく、ほぼ全員が苦笑混じりだった。