第72章 悋気
他のひとたちの進路。
気になってた。
皆、あんなバスケが出来るのに、続けないのかな……って、今日のプレーを見ていて思ったんだ。
ひとの進路にケチつけるつもりはもちろんないけれど、ただ純粋に勿体無いな、って。
皆が皆、競技として続けるわけではないんだろう、恐らく。
「黄瀬はどうするんだ?」
涼太の隣の赤司さんが、すかさずそう返した。
「オレっスか? オレは、笠松センパイの大学に行って、インカレ制覇を目指すっス」
「卒業後は?」
赤司さんのその言葉に、ギクリとした。
心臓が嫌な音を立てる。
涼太の卒業後の進路……一度も踏み込んで聞いたことはない。
「あー……ん、まあ色々考えてはいるんスけど、まだハッキリとは」
涼太は少し困ったような、そんな微笑みだ。
その返答に、思わず ふぅ……と、大きなため息のような呼吸をしてしまった。
どうやら、無意識に息を止めてしまっていたらしい。
明言されずに、安心している自分がいる。
何を怯えてるんだろう。
「なんだ、話を振っておいて、先の事はまだ決めてないのか」
そう笑った赤司さんと目が合い、安堵した自分を見透かされたようなその表情に、恥ずかしくなって顔を逸らした。
「赤司っちは?」
「俺は父の会社を継ぐつもりだから、卒業式が終わり次第、拠点を東京に戻すよ。
暫くは横浜支社で業務をする予定だが」
赤司さんが経営者。
うん、しっくりくる。
「へえ、横浜! 実家に戻るんスか?」
「いや、会社の近くで一人暮らしをする予定だよ。まずは物件探しからかな」
「じゃあ、前よりも会いやすくなるんスね」
「そうなるな」
「紫原っちは?」
涼太は、向かい側に座っている紫原さんに話を振った。