第72章 悋気
「別に、専門学校に行くだけだけど〜」
いつもの、気だるそうな口調。
「そうなんスか? こっちで?」
面倒臭そうにしている紫原さん。でもこうして集まりにも来てくれるし、話にも付き合ってくれてる……。
それに、去年のインターハイでのあの一件。
分かりづらいかもしれないけど、彼もとても優しいひとだ。
彼に貰ったボールペン、これからも海常バスケ部で愛用され続けます!
折角頂いた物だから、皆で大切に使いたい。
「秋田は寒いからもう東京に帰る〜」
「そなんスね。どこの学校に行くんスか?」
涼太に聞かれ、紫原さんの口から出た学校名って……
「あれ、そこって調理師かなんかの専門学校じゃなかったっスか?」
そうだ、見たことある学校名だと思った。
有名な、調理師専門学校の名前。
「もしかして、紫原っち……パティシエ目指してるとか?」
「なに〜? なんかモンクあるわけ?」
「いや、もうそれしかないってくらいピッタリっスよ」
お菓子が大好きな紫原さんにはピッタリな職業なのかも。
でも、"好き"を仕事にするって、大変なんだろうな……。
次に涼太は身を乗り出して、黒子くんの隣にいる緑間さんに目をやった。
「緑間っちは、医学部だっけ。お医者さんっスよね」
「……何故お前が俺の進路を知っているのだよ」
「いや、こないだみわが高尾クンに会って聞いたって……」
そう、この間、偶然街で高尾さんに会って、今後の進路について教えて貰ってしまった。
高尾さんは、緑間さんとは違う大学に行って、バスケも続けるらしい。
仲の良い2人……なんとなく同じ大学なのかな、なんて思っていたから、全く違う進路なのには驚いた。
緑間さんがお医者さん……
長身に白衣が似合って、真面目で実直。
患者さんの心をグッと掴んでしまうかもしれないな。
「あいつめ、余計な事を……」
特に内緒にしているようではなかったから話してしまったけれど、軽率だったかな……。
気分を害してしまったのは確かだろう。
ちゃんと、謝らないと。
「すみません、緑間さん」
緑間さんは少しだけ驚いたような表情をしてから、いつものクールな表情に戻った。
「こんなのは日常茶飯事なのだよ。
高尾の奴が好き放題やっているだけだ。
……別に謝る必要などない」
……皆、優しいんだ、ほんとに。