第71章 悋気
「んで黄瀬、オマエどーすんの? オレは行くけど、オマエ行くわけ?」
「行くっスよ! モチロンっしょ! 2月になったら学校も自由登校になるし」
「あーそうか、ウチも卒業式までは自由登校だわ」
2人の会話を聞いて、ようやく気付く。
そうか、自由登校。
今まで通りに学校生活を送れると思っていたけど、もう卒業……。
特別な3年間だったな。
友達も、……好きなひとも出来て。
毎日が、楽しくて。
「ねえねえ、来月卒業旅行代わりに、皆で温泉でも行かない?」
さつきちゃんが右手を高々と上げてそう言った。
……卒業旅行?
「さつきちゃん、卒業旅行って、大学生とかが卒業の時に行くやつじゃないの?」
「そうなんだけど、大学に行ったらもっと皆バラバラになっちゃうもん。安いところでいいからさ、皆でいこうよ!」
温泉……
た、楽しそう……。
「みわちゃん、行くでしょ?」
「うん、行きたいな」
「決まり! 行こう行こう!」
「オレはパス〜。来月じゃこっち帰ってくる予定ないし」
「俺も少々厳しいかな。また次の機会に」
紫原さんも赤司さんも、そのためだけに東京に戻ってくるというのはなかなか難しそう。
「ムッ君と赤司君は無理かあ……。じゃあ、テツ君は? 行くよね?」
「すみません、ボクも来月は立て込んでいまして……」
皆、卒業とはいえ、すぐに新しい生活が待っている。
予定はてんこ盛りのようだ。
「えー! じゃあどうしようかなあ……皆が来れる日にちってあるかなあ」
今こうして集まれているのは、年末だし、ウィンターカップがあったからだ。
こうやって、全員が集まれる機会は、そうそうないだろう……。
「桃井」
打つ手なく静まり返った場に、静かに優しく響く声。
「今晩から行ったらどうだ?」
赤司さんは、湛えた微笑みを崩さないまま、そう問いかけた。