第17章 噂 ー後編ー
「一時的に乗り切るんじゃなくて、自分で乗り越えて初めて、周りの信頼に応えられるようになるのかな」
「信頼……ですか……」
信頼。今まで信じてきたものが、ここにきて揺らいでしまっている。
おまけに、第三者の噂だけで。
悲しい。
「信頼って……なんなんでしょうか……昨日まで信じていたものが、今日はもう信じられないなんて、それは最初から信頼なんてしていなかったのでしょうか……」
だったら、私と黄瀬くんの関係ってなんだったんだろう。
「そんな事ないよ。人間って多分、そんなに強くないよ。見失うことだって、あると思うよ。自分の気持ち次第じゃないか」
「……」
「……黄瀬となんかあった?」
「え、いえ……」
「なんか今日も雰囲気が違ったし。もし黄瀬の事で悩んでたら、たまにはアイツにもぶつけてやったらどうかな」
「……どういう、意味ですか?」
ぶつける?
「……アイツはさ、海常のエースってのを背負って頑張ってるけどさ、今以上に自分を必要としてくれる人を求めてるような、そんなところがあると、思わないか?」
「……思います……どこか満たされていないような、そんな感じがします」
「神崎の方がそこはよく分かってるかな。
もっと、感情ぶつけてもいいんじゃないか。
……神崎は頭がいいから、つい頭で考えちゃうのかもしれないけどさ」
「でも、それで彼の負担になるのは……一番嫌なんです……」
「アイツ子どもっぽい振る舞いする事もあるけど、大丈夫。ちゃんと受け止めるよ。
……部外者が首突っ込みすぎたかな」
「いえ、とんでもないです。お忙しいのに、ありがとうございました」
この気持ちを……ぶつける……
ぶつける覚悟すら、今の私にはない。
その先がどうなるのか、怖いから……。
もし受け止めて貰えなかったら?
それでこの関係が終わってしまったら?
でもどの道このままじゃ、黄瀬くんを避けて嫌な気持ちにさせるだけだ。
どうしたらいいんだろう。
それから数日、悩みに悩んでも答えが出るわけもなく。
いよいよ明日から、合宿が始まる。