第71章 笑顔
「っぷしゅんっ!!」
オレの下で肌を露わにしているみわは、小さな声でくしゃみをした。
重なっている身体は温かくても、もう1月もそこまで来ているという時期だ。
かいた汗が冷えるのも早い。
「みわ、寒い?」
素早く鞄からスポーツタオルを取り出して、みわの身体にかけた。
「大丈夫……涼太が、あっためてくれるから」
そう言って、みわはオレの首に両腕を回してきた。
え?
なになに、これはもしや?
「え……何、もう一回、シたいってこと?」
「ち、違うよっ! 涼太があったかいから、だからくっついて……ちょ、ちょっと涼太!」
その物言いに、オレはまた素直に反応してきた。
「みわがそんなカワイイ事言うから、復活したっスわ……」
「まっ、待ってよっ、もう、むりだからっ」
「ん〜……?」
抵抗する非力な腕を押さえて、冷えた柔らかい唇を重ねる。
少し寒いけど、また甘い時間を……
……と思ったのに、この空気に全くそぐわない、軽快な着信音が再び耳に届いた。
また、オレのスマートフォンが着信を知らせている。
「りょ、うた、でんわ……」
みわは、ウィンドブレーカーの上に放り投げたオレのスマートフォンに目をやっている。
「みわ、集中して……」
「だ、だって、赤司さんだよ……!」
どうやら着信画面が見えたらしい。
旧友の名を出されると、なんか萎えてしまう。
「ね、みわ。
優勝記念で、ロマンチックな時間を堪能するトコじゃないんスか?」
部室で押し倒して、ロマンチックが聞いて呆れるけど……。
「涼太……」
鳴り続ける着信音。
赤司っちは、諦める気配がない。
「あーもう、着信音が響き渡ってる中、ロマンチックって雰囲気でもねぇっスね……」
なんでオレ、さっきマナーモードにしとかなかったんだろ……。
ハアとため息をひとつ吐き、スマートフォンを拾い上げてベンチへ腰掛け、画面をタップした。
「モシモシ……赤司っち?」
『ああ黄瀬、忙しいところ悪いね』
「うん、今すっげぇ忙しかったんスよ」
『女性は冷えると良くない。
家に帰ってからゆっくりしたらどうだ』
「……は?」
赤司っちには敵わない、そう素直に思ったのである。