第71章 笑顔
「なっ、な、なんスか、そんな」
『ああ、当たりか? 言ってみただけなんだが。
大切な人の身体、大事にしろよ』
……やられた。
赤司っちにカマかけられた。
電話の向こうの声は、明らかに楽しそうに笑っている。
終始、赤司っちのペースで会話は進んでいった。
通話を終了させると、ひとりでに大きなため息が漏れ出した。
「……赤司さん、なんだって?」
大きな瞳で心配そうに覗き込んでくるみわ。
「いや、大晦日の詳しい話だった。桃っちが連絡するって言ってたのにな……」
電話で話している間に、みわはすっかりと服を着てしまっている。
「……帰ろっか、みわ」
当てずっぽうで言ったとはいえ、まるで、監視カメラか何かで見張られてるんじゃないかと思うほどの赤司っちの発言に、流石にもうここで続きをする気にはならない。
……あのヒトなら、カンじゃなくて、本当に分かってたんじゃないかと思うっスね……。
「……ん」
みわは、そっとオレの左肩に身を寄せてきた。
「みわ、手」
細く長く、冷えてしまった指を絡めて、ウィンドブレーカーの左ポケットに迎え入れた。
嬉しそうに体重を預けてくれるみわ。
みわと一緒に、歩き慣れた道を歩き出す。
それなのに、周りの景色は1人で歩いている時とはまるで違うもののように見えた。
心持ちひとつで、これだけ世界は変わるのか。
みわと一緒なら、色んなものが色鮮やかに見えるんだろう。
このひととずっと一緒に居たい。
どうすればいい?
一緒に暮らせばいい?
……結婚すれば、いい?