第71章 悋気
「黒子っちも、もう競技でバスケはしないって言ってたっスよね。進学するんスか?」
「はい。ボクは……保育士になりたいんです。バスケは、趣味程度には続けていくつもりです」
「へえ、そなんスか……」
保育士……そうなんだ。
あきもキオちゃんも、保育士志望だ。
業界の事情なんて全く分からないけれど、男性の保育士さんて、どの位の割合でいるものなんだろう。
人間観察が得意で、優しくて、強くて。
"影"に徹する事が出来るひと。
支える事が出来るひと。
きっと素敵な保育士さんになれるよ。
残るは、さつきちゃんと青峰さん……。
涼太が青峰さんに目線を送ろうとして、すぐにその視線を手元に落とした。
「あれ、電話だ。ごめん、ちょっと行ってくるっス」
席を立った涼太が「モシモシ、黄瀬です」と言っていたのを見ると、目上の人からの電話なのかな……?
話の流れが突然中断されてしまって、少しの間会話が無くなった。
その沈黙を打ち破ったのは、意外にも青峰さん。
「神崎、さっきの茶、なんだった?」
茶?
先ほどからドリンクバーでお茶を飲んだ記憶はない。
と言うことは、今日ポットに作ってきたお茶のことだろう。
「ハイビスカスティーですよ」
「ハイビスカスゥ? あの南国っぽい花か?」
「そうです。あの赤い花……」
「あれ、飲めんのか」
「ハイビスカスティーは、疲労回復の効果があるんです」
ハイビスカスティーには乳酸を分解することが出来るクエン酸やリンゴ酸が含まれているし、カリウムが含まれているから、疲労回復やむくみにいい事を説明する。
「へぇ、よくわかんねーけど、美味かった」
青峰さんは、特にそういう効能に興味はなさそうだ。
スポーツする人にいいらしいのよ、黄瀬さんに飲ませてあげたらどう?とおばあちゃんがいっぱい買ってきてくれた。
あまりに量が多かったから作ってきたんだけど、酸味があるお茶で、結構好き嫌いが分かれるタイプのものかと心配してたから、お気に召して貰えたなら良かった。