第71章 笑顔
各部の部室を横目に、バスケ部の部室を目指す。
年末のこの時期のこの時間まで練習をしている部活は、流石にないらしい。
少したてつけの悪くなったドアをキィと開けると、いつもの男臭さに一瞬たじろいだ。
「はは、夏よりマシっしょ?」
涼太は笑いながら部室に入っていく。
……確かに、涼太の誕生日にここに足を踏み入れた時は、もう少し嫌な感じがあった気がする。
一足遅れて足を踏み入れ、窓際のテーブルへと向かう。
夏にはインターハイ準優勝のトロフィーが置いてあった位置に、ウィンターカップの優勝トロフィーやカップを並べていった。
「ほあー……壮観だね……」
なんだか、しみじみと思う。
ああ、優勝したんだ……。
あの瞬間、あまりに現実味がなくて、既にハッキリ記憶にない。
「優勝、したんスね」
「うん……」
「これでオレたちも、引退か」
引退……そうだよね。
なんだか、言葉にすると急に寂しくなる……。
「みわ、3年間オレたちを支えてくれて、ありがとう」
突然柔らかい声色に変化したのを感じて涼太の方に向き直ると、彼はその切れ長の瞳を優しく細め、微笑んでいた。
「こちらこそ、こんな素敵な夢を見せてくれて、ありがとう……」
お礼を言いたいのはこちらの方だ。
最高のチームで、頂上を見せて貰えたんだから。
「みわ」
涼太の大きな手が私の手を掴む。
その高い体温に、心臓が跳ねる。
冷え性の私の手が、冷たいだけ?
「なに……?」
涼太の唇が、手の甲に触れた。
手よりもずっと、熱い唇。
「え、え……?」
「手の甲へのキスは、"敬愛"なんだって。
みわに贈るのに、ピッタリでしょ?」
吐息が肌を滑り、ぞくぞくと痺れるような感覚が全身を包む。
「……っ」
這うように上がっていった唇は、リップ音を立てながら手首で止まった。
「手首へのキスの意味、知ってる……?」
その妖艶な雰囲気に、息を呑む。
手首へのキスの意味……?
「知らない、けど……」
途端、視界がぐるりと反転した。