第71章 笑顔
「黄瀬」
「黄瀬くん、着いたよ」
監督と2人で呼びかけても、全くの無反応。
肩にもたれている涼太と距離が近すぎて、微かに温かみを感じる寝息にすらドキドキしてしまう。
……こんなこと言ったら、そんなのでまだドキドキするの? って、また笑われてしまいそうだけれど……。
「黄瀬涼太くん、おーーきーーてーー」
強めに揺すると、ようやく身じろいで反応を見せ、起こすことに成功した。
「ありがとうございました!」
荷物を降ろした事を確認すると、監督の車はさっさと学校を出て行ってしまった。
話によると、一度車を置きに帰ってから今晩は「大人たちの祝勝会」らしく、朝まで飲む予定らしい。
どうやら、各校の監督にも声を掛けているらしく……。
いつになく嬉しそうなその姿に、こちらまで頬が緩んだ。
「んあー……よく、寝た」
涼太は長身を更に伸ばすかのように、大きく伸びをした。
気まぐれなネコのようなそのしなやかな動きに、思わず目を奪われる。
コートの中の彼も、この緩みきった表情の彼も、……好き。
「涼太、ごめんね。寮の前で降ろして貰えば良かったんだけど……」
「みわは?」
「あ、私はトロフィーを部室に……」
涼太はトロフィー類が入った大きな紙袋をヒョイと持ち上げてしまう。
「手伝うっスよ」
「そんな、もう帰った方がいいよ。
置いていくだけだし、1人で大丈夫。
疲れてるんだから……」
そう言って彼の足元を見ると、体育館を出た時のような不安定さはなく、足取りはしっかりしていた。
「あんだけ寝りゃ、回復するし」
道路が混雑していたから到着まで予定よりもかなり時間がかかってしまったとはいえ、たかだかあの数時間で……。
そうこうしているうちに、彼の背中がどんどん遠ざかっていく。
「ま、待ってよ、涼太!」