第71章 笑顔
「準備はいいか?」
「はい、お願いします」
涼太と2人で乗り込んだ監督の車が、会場を後にする。
車のメーカーは詳しくないからよく分からないけれど、国産メーカーではないというのだけは分かった。
コンパクトカーの部類に入るのだろう、この車では監督も涼太も、どことなく窮屈そうに見える。
写真撮影の後、OBの先輩方とあれやこれやと話していた涼太は、車に乗り込むなりぐっすりと眠り込んでしまった。
やけにアッサリとした挨拶だったけど、いいの? と聞いたところ、「祝勝会もあるし、次はセンパイのチームでインカレ制覇するから、今はこれでいいんスよ」だそうで……。
ウィンターカップ優勝の祝勝会は、年始に急遽開かれる事になった。
年末だと、流石にこんなに急なスケジュールでは参加者も集まらないだろう。
会場を押さえるため、あちこちに電話していた監督は、面倒と言いながらも嬉しそうだった。
「黄瀬は寝とるのか」
「あっ……はい」
涼太は私の右肩に頭を預け、寝息を立てている。
監督に話しかけられても、ピクリともしない。
身体の力が完全に抜け切っているところを見ると、熟睡しているみたい……。
当然だ。
これ以上ないくらい、全てを出し切った試合だった。
「神崎」
「はい」
「黄瀬は、いずれ日本代表のユニフォームを着ることになる」
「……」
日本、代表……。
「お前の進路希望は担任から聞いた。
お前が黄瀬についていくつもりなのかは知らんが……よく考えておけよ」
世界で活躍する涼太に、ついていく覚悟……
「……はい」
バスケの事だけ考えていられる時間は、今日で終わり。
これからは、全く違う生活になるんだ……。
今日の試合について監督と話しているうちに、車は海常高校の門をくぐっていった。
「部室棟の前でいいか」
「はい、ありがとうございます」
そう言ってから、しまったと気づく。
涼太だけ、男子寮の前で降ろして貰えば良かった。
男子寮は、学校から少し歩く。
この状態では、その距離でも身体にこたえるだろう……。
でも、今更Uターンして下さいとも言えない。
車は、部室棟の前に停車した。