第71章 笑顔
"やっぱりオレ、外からのシュートの確率が低いんスよね。
緑間っちまでとは言わなくても、ここぞという時に自信持って決められるくらいにしたいんス"
そう言って、毎日練習の後のシューティングメニューに、3ポイントシュートの項目を追加していた。
「黄瀬が3ポイントシュート決めなくても、そんなのはシューターにまかせりゃいいだろ」
「いやいや、違うんスよ。
いざって時にさ……もう身体も言うこときかなくなって、それでもこの1本で勝敗が決まるって時には……練習量がモノを言うと思うんス」
チームメイトの疑問にもそう言って、黙々とシュート練習を続けた。
そのシュートが、試合を決めた。
"泣いて、泣いて、
これでもかってくらい泣いて……
最後に、笑えばいいんスよ"
あの時の涼太の声が、頭の中に響く。
ぼやけた視界の中で、見える。
あぁ、だいすきなひとたちの、笑顔だ。
皆が、こっちを見てる。
おめでとうって、言わなきゃ。
「みんな……おめでとう……」
「なぁんでヒトゴトなんスか?
みわ、オレたちが勝ったんスよ!」
明るいいつもの声が、真っ直ぐ耳に届く。
「神崎!」
「神崎先輩! こっちです!」
3年間、一緒に頑張ってきた仲間が。
ついてきてくれた後輩が。
皆が、抱きしめてくれた。
ありがとう、って。
お疲れ様、って。
私、このチームに居ることができて、良かった。
こんなに、幸せな瞬間に立ち会えるなんて。
「……ありがとう……」
涙が、止まらない。
ウィンターカップの今大会成績……
優勝は、海常。準優勝、誠凛。
そして第3位には、秀徳を退けた桐皇学園。
そして、今大会の男子ベストファイブの発表。
海常・3年 黄瀬涼太、1年 笠松幸弘
誠凛・3年 火神大我
桐皇・3年 青峰大輝
秀徳・3年 高尾和成
キセキの世代が中心になった3年間が、終わった。
各々、希望や葛藤を胸に、表彰台へ上がる。
涼太は、泣いていた。
泣いて、笑っていた。
表彰台の一番高いところ……
やっと、辿り着けたんだね、涼太。
怪我に苦しめられて。
エースの重圧と、主将の責任を背負って。
今、優勝トロフィーを受け取る。
最高に、格好良いよ。
私の……だいすきな、ひと。